「半沢直樹」を元銀行員が自分の経験から語ってみた|ドラマの世界と現実との違いは?

ドラマ「半沢直樹」が社会現象になったのはもう3年以上も前のこと。

今年ドラマ化された「下町ロケット」の作者・池井戸潤が、銀行を舞台に描いた「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」という2つの長編小説を1クールのドラマにしたのが「半沢直樹」。

 

主人公・半沢直樹はメガバンク「東京中央銀行」でも有数の大型店舗「大阪西支店」の融資課長。

手柄をいそぐ支店長の強い意向で進められた新規取引先「西大阪スチール」への5億円の無担保融資。半沢は慎重な姿勢をとったが、支店長のゴリ押しで融資を実行した直後に西大阪スチールの粉飾決算が発覚。間もなく倒産し社長は行方をくらました結果、5億円全額が回収不能となり、その責任は半沢ひとりに押し付けられ出向の危機に直面。

しかし半沢は執念深く社長の行方を追い、何度も行き詰まりながら債権を回収、倒産の裏にあるカラクリを暴き反撃に打って出るというストーリー。

実際にありそうなエピソードが散りばめられていて、銀行員時代を思い出しながら見ていました。

 

 

ホントの銀行に「半沢直樹」は存在するか?

 

 

元銀行員だった私からみても、ドラマ「半沢直樹」は銀行の内情がよく表現されていたと思います。

私が最初に配属された支店でも似たようなことがありました。

直属の課長が部下の仕事の失敗を理由に標的にされていた時の話です。ドラマに出てきた「小木曽」のような副支店長からイジメに近い説教を毎日くらって体調を崩してしばらく入院。なんとか職場復帰した課長は責任を取らされて左遷されました。

新入行員だった私にとっては、そんなオトナのいじめが理解できなかったこと、病院へ見舞いに行ったときの課長が見る影もないくらい憔悴している姿が今も記憶に残っています。

正直この失敗は直属の課長だけのせいではなく、誰かに責任を取らせるためのスケープゴートにされたのは明らかで「大和田常務」的にいうと「しっかり部下に責任を取らせた」のかもしれません。

この銀行にはいろんな種類の人間がいましたが、「半沢直樹」タイプの人間に出会うことは一度もありませんでした。

 

 

実際に大きい支店長の権限

 

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半沢は融資課長なのに支店長の融資案件に待ったをかけれなかった最大の理由は「支店長の権限がとても強いから」に他なりません。

私の勤めていた銀行でも支店長の権限は大きかったです。

毎朝、支店長が出勤すると行員は開店準備などの仕事を中断してまで支店長席に挨拶に行く習わしがありました。

これは日常的なルーティンワーク(支店の規模にもよるが)で「支店長への礼儀」とも「支店長とのコミュニケーション」とも聞かされてました。

しかし朝の忙しい時間は貴重です。たまに支店長が社員と話し込むと支店長席の前に挨拶待ちの行列ができることもありました。

 

支店長は本店から融資の承認の権限(上限金額は定められているが)や社員の評価にプラスして「間接的な人事権」を持っているので時代劇の「お殿さま」のような印象です。

誰も支店長に逆らうどころか、約2年ごとに変わる「お殿さま」の評価が大事という共通認識を持っていました。そこには昇進したい人もいたでしょうが、トップから嫌われると「仕事がやりにくくなるから」というのが大勢だったと思います。

 

支店長のゴリ押し融資はあり得ない

 

でもドラマのような支店長のゴリ押し案件はまずありません。

それどころか責任回避のため支店長が自ら融資案件を引っ張ってくる人は少なかったように思います。ドラマのように取引もない会社の運転資金に「無担保で5億を緊急融資」をするなどあまりにリスクが高いので半沢直樹でなくても気が進まないのは当然です。

ただしドラマのように「支店長の意向であれば気が進まなくても何でもする」という意識は「そのかわり支店長は全責任をとる」という理屈とセットで銀行員には根強く染み付いています。

強引に取引をすすめる支店長に不本意ながらも従う半沢の気持ちも理解できます。

 

融資課長には暇などない

 

どの支店にもこちらから取引先に出向いて預金を集めたり、新規の融資案件を探す渉外担当(得意先係)がいます。

半沢は融資課なので、渉外係や窓口で受け付けた融資の案件を稟議(審査)するのが主な仕事です。もちろん取引先に出向いて商談することもありますが、基本的には融資を実行するための書類作成や融資先の期日管理など期限が決まった仕事が多く常に事務仕事に忙殺されます。

 

ドラマの中で半沢の部下が「西大阪スチールには何度もアタックしたが社長は会ってもくれなかった。」というシーンがありましたが、取り付く島もない会社に訪問するのは渉外係の仕事。

融資係には糸口もない新規先を訪問する時間的な余裕はなく、訪問してもかなり短時間で切り上げないと事務仕事が山積みになります。それに仕事の性格上、融資課長はディフェンシブなスタンスの人が多く、渉外係がノルマ達成のために持ち帰った融資案件には慎重な姿勢で対応するのが当たり前でした。

 

お抱え運転手は情報通

 

Tammydz / Pixabay

半沢直樹が支店長の悪事に気づき、日頃の動きを支店長専用車の運転手から情報を掴む場面がありました。

確かに大規模店舗のお抱え運転手は銀行の人事や出世と関係ない世界にいながら銀行の重要なポストにある人と長い時間を過ごします。

銀行の上役も利害関係が薄い運転手にはつい気を許すことが多く、重要な話をしてしまうケースもあり支店では誰も知らない情報を持っていたのです。

ただ運転手が理由もなしにその情報を口にすることは稀です。

ドラマでは運転手と仲が良い(と思われる)半沢の部下・角田を仲介にして支店長の動向を聞き出しています。この運転手から支店長が頻繁に利用する銀行を聞き出せたのは、角田と運転手の個人的な繋がりがあったことを表現するあたりは芸が細かい。

 

銀行の派閥の話

 

古い体質と言われるかもしれませんが、銀行には派閥や学閥があるのは間違いありません。

 

私がある支店で渉外係をしていたとき、銀行の重役の父親が亡くなったときの話です。ウチの支店長はこの重役の派閥だったので渉外係全員を葬儀の手伝いに参加するように命じました。

この日は平日で銀行は営業日です。朝一番で渉外係全員がお客さまとの約束を先延ばしにしたりスケジュールの調整を行い、まさに「万障繰り合わせて」葬儀に行くのです。

遠く県外の葬儀場でしたが、行員の自家用車数台に乗り合わせて高速道路を飛ばしたので葬儀時間よりかなり早く現地に到着しました。(高速料金・ガソリンは当然自前です)

実際に葬儀場に着いても、地元の葬儀業者や本店の秘書課の連中がきっちり段取りをしているので我々はこれといってすることはありません。支店長は私たちに駐車場の案内係をするよう指示すると、いち早く挨拶をするため重役のいる葬儀場内に消えました。

 

葬儀も始まり駐車場も落ち着くと先輩たちが色々と教えてくれました。

葬儀に多くの部下を連れて一番乗りでかけつけたことが「支店長のプラスになる」というような話だった。

まるで「いざ鎌倉!」です。今は何時代かと思うようなことですが、先輩たちは「銀行ではこういうことも大事だ」と口々に言ってました。

ちなみにこの支店長はその後、取締役になりました。

支店長は部下の私からみても優秀な人だったので当然の人事かもしれません。(もちろん銀行にはこの支店長のような人ばかりではありませんが)

 

まとめ

 

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ドラマのなかで「銀行は晴れた日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」なんてセリフがありました。会社の景気が良いときにお金を貸すが、業績が悪化すると一括返済を迫るのは確かに理不尽なことかもしれません。

また「銀行の常識は、世間の非常識」と皮肉られていましたが、これは私の現役時代にもよく言われていました。

それは銀行が「お金そのもの」を扱っている以上、信頼や付き合いの深さだけで取引するのは危険だからです。金貸しである以上、世間さまと同じ目線で判断することは出来ないという考え方を基にしています。

知り合いや身内にお金を借りるときには「絶対に返します」という人はいても「多分返します」という人はいません。でも借りたお金を返さない人はいますよね。

つまり「絶対に返します」なんて言葉は何の意味も持たないということです。

とくに銀行は元金の返済だけではなく、利息をもらって初めて利益を得る商売なので「シビアになるのは当たり前のこと」です。

 

また「銀行は一度大きな失敗をしたら、もうやり直せない世界だ」と言ってましたが、それはどの業種でも通じることだと思います。サラリーマンの世界で失敗をしたら出世レースから出遅れるのは当然です。ドラマでは半沢も含め同期の連中(近藤や渡真利)はみなエリート路線で強い出世欲を持っていたように思います。

 

半沢直樹は融資課長という設定ですが、上司に逆らう事は銀行ではあり得ないので(普通の会社でも同じですよね)課長になる前に、とっくに出向になっているはずです。ただ、優秀なだけでなく誰にでもズケズケと意見する銀行員はなかなかいないので、半沢みたいな課長がいたら職場はきっと面白いでしょうね。

 

元銀行マンNari(なり)です。専業主夫になったひきこもりのナイスミドルです。「四十にして惑わず」のはずが、家族持ちで今だに人生を模索中です。戦国時代や歴史の考察がメインのブログ発信をやってます。

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